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岡山地方裁判所 平成6年(わ)194号 判決

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中六五〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和六二年四月三〇日岡山簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年(三年間執行猶予・保護観察付、同六三年五月一六日右猶予取消)に、同六三年四月二六日簡易裁判所において同罪により懲役一年に、平成三年八月八日岡山地方裁判所新見支部において常習累犯窃盗罪等により懲役二年六月に各処せられ、いずれもそのころ右各刑の執行を受け終わったものであるが、更に常習として、別表記載のとおり、平成六年一月二九日から同年四月二三日までの間、前後一二回にわたり、岡山市《番地略》甲野アパート東側道路工事現場ほか一一か所において、Aほか一〇名の所有又は管理に係る自動車一二台(時価総合計約七二〇万円相当)を窃取したものである。

(証拠の標目)《略》

(累犯前科)

被告人は、(一)昭和六二年四月三〇日岡山簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年(三年間執行猶予・保護観察付、同六三年五月一六日右猶予取消)に処せられ、平成二年四月五日右刑の執行を受け終わり、(二)昭和六三年四月二六日岡山簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年に処せられ、平成元年四月五日右刑の執行を受け終わり、(三)その後犯した常習累犯窃盗罪、道路交通法違反の罪により平成三年八月八日岡山地方裁判所新見支部において懲役二年六月に処せられ、平成五年一二月九日右刑の執行を受け終わったものであって、右各事実は検察事務官作成の前科調書及び右各事件の判決書謄本によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は包括して盗犯等の防止及び処分に関する法律三条、二条前段(平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法二三五条)に該当するところ、前記(一)(三)及び(二)(三)の各前科の関係で平成七年法律第九一号附則二条一項本文による改正前の刑法五九条、五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で三犯の加重をし、なお犯情を考慮し、同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中六五〇日を右刑に算入し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人が本件各犯行当時てんかんに罹患しており、てんかんの影響により心神耗弱の状態にあったと主張するので、以下検討する。

関係各証拠によれば、被告人が、小学校五年生ころ、側頭葉てんかんに罹患し、大発作にも襲われたことがあり、養護学校を卒業後、通院治療を続けていたことが認められる。そこで被告人のてんかんと本件各犯行の関係を検討すると、本件各犯行における自動車の窃盗態様、犯行後に被告人が窃取自動車を運転した状況、被告人の供述並びに鑑定人扇谷明及び同保崎秀夫作成の各鑑定書を総合すると、本件各犯行当時、被告人は、てんかんの発作に陥ってはいなかったものの、てんかんの影響による抑鬱状態にあり、このような気分を晴らすため、かねて興味のある自動車を窃取して乗り回したことが認められ、とくに別表一、三の各犯行については、犯行後に窃取自動車を運転して事故を起こしており、別表八の犯行については、犯行前にかねて窃取していた自動車を運転して事故を起こしていたことによれば、別表一、三及び八の各犯行当時、てんかんの影響による意識障害が著しく、これにより、行為の是非を弁別し、その弁別に従って行動する能力が著しく減退していた疑いがある。

以上によれば、別表一、三及び八の各犯行当時は、被告人が心神耗弱に陥っていたと認めることができるが、別表二、四ないし七、九ないし一二の各犯行当時は、被告人に責任能力を認めるべきところ、別表一ないし一二の各犯行はその全体につき一罪をもって評価すべきであるので(いわゆる集合犯)、その一部の犯行当時、被告人が心神耗弱であったからといって、本件犯行全体につき被告人が心神耗弱であったと認めることはできない。

よって弁護人の主張は採用することができない。

(なお、そうだとしても、本件各犯行の動機はいずれも被告人のてんかんに起因する抑鬱状態に密接に関連しており、心神耗弱を認めるかどうかは程度の差にあるということができるので、前述のとおり、酌量減軽することとした。)

(量刑の理由)

本件は、被告人が、常習として自動車窃盗(一二件)を重ねたという事案である。

本件犯行の被害総額は合計約七二〇万円にのぼり、被告人は、気晴らしのため、窃取した自動車を乗り回した上、脱輪・横転・大破させたり、乗り捨てたりしており、その犯行態様は極めて悪質である。

しかしながら、本件犯行は、被告人の持病のてんかんに起因する気分変調が影響していること、被告人は、本件犯行を反省しており、今後は真面目に働き、二度とこのようなことは起こさないと更生を誓っていること、被告人の未決勾留が二年以上にわたることなど酌むべき事情がある。

よって主文のとおり判決する。(求刑懲役四年)

(裁判官 市川 昇)

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